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平安絵巻編「名の由来を語る者」(5)

こちらの小説は平安絵巻編「名の由来を語る者」(4)の続きになっております。




「・・・ふむ、あの扇か。」


主は藤華姫に悟られぬよう、知らぬふりをして相槌を打たれた。
それに関しては謎でありながらも意図も簡単にほどけてしまう、稚拙なものであった。
しかし、主はあえて藤華姫のお言葉から事の次第をお聞きになろうとした。


「あの扇を、道長があの女のために用意したものだって言ったのよ!あれは!あれは!!ぐっ・・・げほっごほっ・・・」


藤華姫が突如、息をされるのも苦しそうなご様子になられた。
床に片手をつき、もう片方の手で胸を押さえながら、どうにかして息をなさろうと全身が大きく上下に動いておられるのを見た主が、我が羽根に施された封印を一気に解かれた。

なすべきことは心得ていた。


「お気を確かになさいませ、倫子(りんし)様。」


羽根を広げ、藤華姫を包み込むようにぐるりと包んだ。
藤華姫ご自身からあふれ出た、良からぬ気をもう一度その御身に戻さぬよう、我が胸元に藤華姫のお顔を引き寄せ、両の腕と羽根を使って藤華姫から良からぬ気を遮った。

そして、通り名ではなく御名をお呼びし、良からぬ気に飲み込まれぬようにと呼びかけた。


「倫子様、どうかゆっくりと少しずつ息をなさいませ。」

「・・・っ・・・はぁっ・・・ごほっ・・・あれ、は・・・」

「今はお話なさらずともよいのです、まずは御身を大切になさいませ。そうでなければ話すこともできませぬ故。」

「あ・・・れは・・・ミヤマ、が・・・ぐっ・・・」

「私のことなど良いのです、まずは倫子様の」

「ミヤ、マ、は・・・道長っ・・・の・・・友、だからっ・・・」


藤華姫からずるずると力が抜けていくのと時を同じく、私も力が抜けそうになった。

私が、時の御方の友だと?


「ミヤマがっ・・・せっかく宋まで行ってくれたのに、それなのに私が我儘を言って、道長に藤の扇をプレゼントしたのに、なんで・・・・・・これじゃあ道長もミヤマも悲しいじゃない・・・。」

「私のことなど良いのです、どうか御身と道長様のために」

「だってミヤマが道長のこと嫌いになったらどうしようって思ったの!それなのにあのバカ!なんで藤の扇を失くすわけ!?」


私から離れ、藤華姫お一人でお座りになられてしばらく、息を整えようとゆっくりと息をなさっておられるのを見守っていると、ふと、部屋の中を風が通り抜けるのを感じた。
風上に顔を向けると、そこには時の御方のお姿があった。


「りんりんちゃん・・・ごめんね・・・。」

「道長、まだ来て良いとは・・・いや、もうよい、入れ。」

「うん。清明もミヤマもごめんね?」

「ごめんじゃないわよ!!このバカ!!あの扇はね!!アンタのためにとミヤマが宋まで行ってくれたものなよ!!それなのにあんな女にプレゼントするなんてどういうつもりよ!!」

「あげてないもん!失くしたんだもん!!」

「あの女の前に落としてきたから、あの女は道長に貰ったって言いふらしてんでしょうが!!さっさと取り返してきなさいよ!!」

「ふむ、これはよくないことになった。」


主よ、本当はそうはお思いになっておられまい。

パチン、パチン、と、主が音を立て始めた。
その音が何から出ているものなのか、まだ何も聞かされていない時の御方と藤華姫が口論を辞め、主の方へとお顔を向けた。すると、御二方の表情が見る間に変わっていったのだ。


「ん?いかがした?」

「あのさ、清明。」

「何かあったか?」

「それってね?オレの記憶が正しかったらだよ?清明が持ってるのってさ?」

「あぁ、これか?件の姫君の邸で拾ってきた。」

「拾ってきたぁ!?」

「ちょっと晴明さん、それどういうこと!?」

「ん?なんだ、欲しいのか?」


このお顔だ。

悪戯が成功した子供のようなこのお顔に、私も何度溜息をついてきたことか・・・。


「ミヤマが宋で手に入れてきてくれた扇なんだがな、どこにも見当たらんので探して回ったら、件の姫君の邸にあったので、事情を説明して返してもらってきたのじゃ。」


そういいながら、私に向かって扇を差し出された。
受け取ると、そのまま御二方へとお渡しした。

時の御方が扇を広げると、見事な藤の花の堀模様と同時に、白檀の香りがふわりと広がった。


「清明!取りに行ってくれたんなら最初からそう言ってよ!!」

「まぁまぁ、よいではないか。それよりも、どのようにして扇が戻ってきたのか、聞きたくはないか?」


そうおっしゃると、主は座を崩し、くつろぎ始めた。




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