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平安絵巻編「名の由来を語る者」(4)

こちらの小説は平安絵巻編「名の由来を語る者」(3)の続きになっております。




「今の倫子(りんし)ならば、京の外れに棲むという『鬼』をも退治できそうだな。」


主は藤華姫にそうおっしゃると、少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。
できそう、などという心にもない事を・・・。


「こういう時の晴明さんって、どうも嘘をついているように見えないから反応に困るのよねぇ。」

「嘘などついておらん、この晴明が見届けてもよいのだぞ?」


今の藤華姫ならば、鬼の退治などいとも簡単なことであろう。
人ならざるものである私も、主と同じことを思っている。


「鬼退治は晴明さんにお任せします。その時の囮には伊周(これちか)を使うといいわ・・・あぁ、でも、鬼にも伊周は不味そうに見えるかもしれないから、鬼の群れの真ん中に伊周を落とすのをおススメします。」

「群れの真ん中ならば、変わり者の鬼が食すやもしれぬなぁ。」

「伊周の活用法は決まったから、話を本筋に戻していいかしら?」

「かまわぬ。・・・ミヤマ。」

「かしこまりました。宴が催されていた邸から出る際、道長様は足元もお言葉もおぼつかないながらも、牛車にお乗りになろうとされておりました。宴の席でどのようなことがあったのかはお聞きしておりません。しかし・・・・・・」


あのような乱れた宴は、時の御方や藤華姫がお嫌いなもの。
そのような宴に、騙されたとはいえ足を踏み入れてしまわれた時の御方の悲しそうなお顔が思い出され、言葉を続けることができなくなってしまった。


「ありがとう、ミヤマ。」

「藤華姫様?」

「どうせ乱交パーティでしょ?貴族の嗜みだとか言って歌会を開いてるけど、歌ではなく厭らしい声を出すのに必死な宴だったから、道長は逃げ出そうとした。だけど、道長が嫌がるとわかってて、あらかじめ道長を酔っぱらわせたヤツがいる、と。」

「そこまでおわかりでしたら」

「ミヤマ。」


主に止められて、お聞きしたいことがお聞きできなかった。
そこまでわかっておられるのならば何故、藤華姫は時の御方をお許しになられないのだろうか?


「まぁ・・・夫婦というものは難しくてな。ミヤマが思うよりもずっと複雑なものなのだ。」

「複雑なもの、にございますか?」


主が黙って頷かれたので、ふと藤華姫を見れば、俯きながらふるふると小さく震えておられたのだ。
唇をきつくかみしめ、時の御方のお召し物を握りしめながら、何かに耐えておられるようだ。
さらには、藤華姫からは少しずつ『気』が出始めていた。


「あれが嫉妬だ。倫子は嫉妬に飲み込まれぬよう耐えておるのだ。己の嫉妬のために、道長を傷つけぬようにな。」

「道長様を傷つけぬようになさるのであれば、拒まなければよろしいのではないのでしょうか。」

「それが簡単にいかぬから、嫉妬となるのだ。自らが良からぬ気を出して、他所にある悪い気を呼び込まぬようにするために、こうして一人で部屋に閉じこもり、自らを律しておるのだ。しかし、このまま道長と倫子だけが耐えることもなかろう。」

「晴明様、いかがなさいますか?」

「倫子の見聞きしたこと全てを聞かせてもらおうぞ。」

「全てでございますか?」

「うむ。そうせねば、倫子も乗り越えられぬからな。」


あの宴のあと、時の御方と藤華姫に一体何がおこったのだろうか。


「倫子、聞こえるか?」

「全部聞こえてます!わざわざ解説してくれなくてもいいのに!」

「自ら嫉妬していると言えるくらいならば、このように一人で部屋に籠ったりせぬ。道長を何日も近づけさせぬということは、余程のことが起きたのであろう?」


主が前触れもなしに、藤華姫の御心の最も奥深くに届く言葉を申された。
すると藤華姫からは、抑えきれぬほどの良からぬ気が溢れ出してきたのだ。
主はそれをいとも易く受け流しておられるが、目は藤華姫から逸らされることはなかった。
藤華姫はやがて、重く閉ざされた心の扉を開くかのように、低く唸るようなお声を出された。


「・・・あの女はねぇ・・・・・・道長に気に入られたって言ったのよ・・・・・・道長と短いながらも・・・逢瀬を楽しんで・・・その思い出にと・・・・・・あの・・・あの扇を渡されたって言ったのよ!!そして!自慢げにニヤニヤしながら扇を広げて見せつけてきたのよ!!」





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